測る
心肺機能レベルが低いと通知されたら
Apple Watch は、屋外でのウォーキング・ランニング・ハイキングのあいだの心拍数などから VO₂Max を推定し、iPhone の「ヘルスケア」App に「心肺機能」として記録します。推定値が年齢・性別の基準で低いと、通知が届くことがあります。このページでは、その通知が何を意味し、何を意味しないかを、Apple の公式説明と研究にもとづいてまとめます。
先に知っておきたいこと
- 通知は診断ではありません。スマートウォッチの推定値が、Apple の決めた基準を一貫して下回ったときに出る目安です。
- 基準は、20〜59 歳では米国の運動負荷試験のデータ、60 歳以上では高齢になっても自立して暮らすための目安の値です(2021 年の Apple の技術文書)。厚生労働省が示す日本人の表とは、元のデータが違います(通知が出る基準)。
- 若く健康な人が中心の 2 研究では、Apple Watch の推定値が実験室での測定より平均約 6 mL/kg/分 低く出ました。ただし、その差を自分の値に足したり、通知が誤りだと判断したりはできません(推定のずれ)。
- まず、ヘルスケア App の設定と、推定されたときの条件を確かめてください(確かめること)。ふだんの活動で息切れや胸の痛みがあるなら、数字より先に医師に相談してください(医師に相談すること)。
図でわかる
通知を受けたら、体調・設定・条件を確認する
心肺機能レベルが「低い」という通知
スマートウォッチの推定値が、Appleの基準で低いことを知らせる目安です。
最初に、体調を確認
気になる症状・持病はある?
胸の痛み、ふだんの活動で強くなった息切れや動悸は、数字より先に医師へ伝えます。
設定と記録を確かめる
ヘルスケアAppの設定
年齢・性別・体重・身長、心拍数に影響する薬の入力。
推定されたときの条件
コース、荷物、体調、暑さなどを振り返る。
近い条件での推移を見る
1回の値だけで判断せず、記録を見返す。
薬の入力に迷うときは医師・薬剤師へ。値を確かめるために運動を強くする必要はありません。
通知が出る基準
Apple のサポートページ(2026 年 9 月公開)は、年齢や性別に照らして心肺機能レベルが低い場合に通知が届き、低い状態が続くと追加の通知が届く、と説明しています。分類の対象は 20 歳以上です。
どこからを「低い」とするかは、サポートページには書かれていません。Apple が 2021 年 5 月に公開した技術文書には、次のように書かれています。
- 通知は、ヘルスケア App で機能の説明を読み、年齢・性別・服用している薬などを入力して、自分で有効にする方式です。
- 推定した VO₂Max が、一貫して、かつ確かに低いときに出します。Apple はこの水準を、長い目で見た健康上の問題のリスクや、今の日常生活での動きにくさを示唆するほど低い値、と説明しています。
| 年齢 | 「低い」の基準と、元にしたデータ |
|---|---|
| 20〜59 歳 | 同じ性別・同じ年代(10 歳刻み)のなかで、低いほうから 5 分の 1(下位 20%)元にしたデータ: 米国の運動負荷試験の登録データ(FRIEND) |
| 60 歳以上 | 男性 18 mL/kg/分、女性 15 mL/kg/分(60 歳以上は年齢によらず一定)元にしたデータ: 自立して暮らす 55〜86 歳の男女 298 人の研究で、85 歳で自立した生活と両立する最低限とされた水準 |
2021 年の文書の説明です。今の基準が同じかどうかは、現在のサポートページには書かれていません。
FRIEND とは
米国の 8 つの検査施設が、2014 年 1 月から 2015 年 2 月に FRIEND に提供したデータです。心血管の病気がない 20〜79 歳の男女が、トレッドミルで限界まで運動し、吐く息を分析して VO₂Max を測った 7,783 件の結果から、性別・10 歳刻みの年代ごとのパーセンタイル(低いほうから何%の位置か)を出しています。中央値(50 パーセンタイル)は、20 代の男性 48.0・女性 37.6 mL/kg/分、70 代の男性 24.4・女性 18.3 mL/kg/分 でした。年代別に比べると、10 歳上の年代では平均して約 10% 低い値でした。同じ人を長年追跡した変化ではありません。
厚生労働省の表とは、元のデータが違う
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」の表 1 は、日本人を測った 23 本の研究(延べ男性 54,611 人、女性 24,100 人)の値をまとめた推定平均値です。FRIEND は米国の検査施設のデータで、下の表に並べたのはその中央値です。対象・測り方・統計の種類が違うため、同じ年代でも数字は一致しません。
| 年代 | 性別 | 米国 FRIEND 中央値 | 厚労省 表 1 日本人の推定平均値 |
|---|---|---|---|
| 20〜29 歳 | 男性 | 48.0 | 43.2 |
| 20〜29 歳 | 女性 | 37.6 | 33.6 |
| 70〜79 歳 | 男性 | 24.4 | 26.3 |
| 70〜79 歳 | 女性 | 18.3 | 23.1 |
FRIEND の値は、論文の要旨にある 20 代と 70 代だけを載せています。
20 代では FRIEND の中央値のほうが高く、70 代では日本人の推定平均値のほうが高くなっています。スマートウォッチの「低い」と、厚生労働省の表で見た自分の位置は、食い違うことがあります。日本人の年代別の平均と基準値は年代別の VO₂Max の目安に、スマートウォッチの値との比べ方は年代の目安と比べるツールにまとめています。
厚生労働省の基準値(表 2)は、生活習慣病などの発症や、それによる死亡のリスクを下げることが期待される値として示されています。どちらの表も目安で、下回ったからといって病気だと決まるものではありません。
スマートウォッチの推定値には、ずれがある
ここでは、Apple Watch の推定値を、実験室での測定(トレッドミルで限界まで運動し、吐く息を分析する方法)と比べた 2 本の研究を紹介します。
- 健康な成人 30 人が参加し、5〜10 日の装着後に実測した研究では、最大運動テストの条件を満たした 28 人を解析しました。スマートウォッチの推定値は実測より平均 6.1 mL/kg/分 低く、平均絶対誤差率は約 13% でした。「スマートウォッチの値 − 実測値」の 95% 一致限界は −18.3〜6.1 mL/kg/分 でした(Lambe ら 2025)。
- Apple Watch Series 10 の研究では、健康な成人 40 人が参加し、35 人(平均 22.7 歳)を解析しました。推定値は実測より平均 6.3 mL/kg/分 低く、「スマートウォッチの値 − 実測値」の 95% 一致限界は −18.2〜5.7 mL/kg/分 でした。FRIEND のパーセンタイルの帯が実測と一致したのは 5 人(14%)、1 つ隣の帯だったのは 12 人(34%)でした(Lambe ら 2026)。
95% 一致限界は、研究でのずれのばらつきから計算した範囲で、観測した最小値・最大値や、個人の誤差を保証する範囲ではありません。両研究とも若く健康で体力の高い人が中心です。低体力の人、高齢者、実際に通知を受けた人にも同じ平均差があるとは確認されていません。自分の表示値に平均差を足して補正することはできません。
一方、Apple の技術文書では、221 人での検証で、推定値と基準にした値の差は平均 1.4 mL/kg/分、標準偏差は 4.7 mL/kg/分 でした。ただし、この基準の値は、限界まで運動して測った値ではありません。途中までの運動での心拍数と酸素摂取量の関係を、年齢から推定した最大心拍数まで延ばして求めた値です。比べた相手が違うので、外部の研究と直接は比べられません。
推定のずれにより、通知の判定が実測に基づく判定と食い違う可能性は考えられます。ただし、この 2 研究は、低い心肺機能の通知が正しかった割合を調べたものではありません。通知だけで病気と判断したり、研究の平均差を理由に通知を無視したりせず、設定・測定条件・症状を確認してください。
通知が来たら、まず確かめること
ヘルスケア App の設定
- 年齢・性別・体重・身長が正しいか。 推定にはこれらの情報が使われます。Apple の技術文書は、年齢・性別・体重が間違っていると、推定値が一貫してずれることがあるとしています。体重が変わったら更新してください。
- 心拍数に影響する薬。 β遮断薬やカルシウム拮抗薬など、心拍数を抑える薬を飲んでいるのに入力していないと、推定値は実際より高く出ることがあります。Apple の検証では、こうした薬を飲む人の誤差が、正しく入力すると 11.8 ± 4.0 から 1.6 ± 3.1 mL/kg/分 に小さくなりました。一方で、ときどき少量だけ飲むなど、最大心拍数をいつも下げるわけではない飲み方では、入力しないほうが正確になる可能性が高い、とも書かれています。入力のしかたに迷うときは、薬を出している医師や薬剤師に相談してください。
推定されたときの条件
Apple の技術文書は、次のような場合に、推定値が低く出たり、正確でなくなったりすることがあるとしています。
- 重い荷物を背負う、子どもを抱いて歩く
- 砂浜など、歩くのに力が要る地面
- ベビーカーを押す、歩行の補助具を使う(推定されにくく、正確でないこともある)
- 脱水、極端な暑さ、高い所に移ってすぐ(心拍数が上がるため、低く出る)
- 妊娠中(からだの変化で、正確でないことがある)
坂、屋内、最大心拍数の設定、長い運動など、ほかの機種にも共通する理由はVO₂Max が下がった・上がらない理由にまとめています。
推定されやすい条件
2021 年の技術文書によると、推定値は、比較的平らな道(上り下りの勾配 5% 未満)で、GPS と心拍の信号が十分に取れ、心拍数がある程度上がる(安静時から最大までの幅のおよそ 30%)屋外のウォーキング・ランニング・ハイキングで出ることがあります。屋外でのワークアウトを何回も行うこと、運動中にある程度の強さを出すこと、運動のとき以外も一日を通して着けることで、精度が上がるとしています。
ただし、測るために無理に強くする必要はありません。体調が悪い日は休みましょう。運動中に胸の痛みやめまいなどがあれば、すぐにやめてください(安全に始めるために)。
推移を見る
1 回の値ではなく、同じような条件で歩いたり走ったりした記録を重ねて、推移を見てください。ヘルスケア App では、日・週・月・6 か月・年ごとの平均を切り替えて見られます。過去の推定値をより正確に計算し直せるとわかった場合は、「心肺機能」の画面にデータをアップデートする選択肢が表示されます。
「低い」と健康の関係
運動負荷試験で評価した全身持久力が低い人ほど、死亡や心臓病のリスクが高いという関連が報告されています。健康な成人の 33 のコホート研究をまとめた研究では、年齢・性別の違いを調整し、全員を 50 歳の男性と仮定した尺度で比べています。その尺度での低体力群(7.9 メッツ未満)は、高体力群(10.9 メッツ以上)に比べて総死亡の相対危険度が 1.70 でした(Kodama ら 2009)。この区分を、個人のスマートウォッチの表示値や実測値にそのまま当てはめることはできません。34 のコホート研究のまとめでは、1 メッツ高いごとに、総死亡の相対危険度は 0.88 でした(Han ら 2022)。
どちらも観察研究で、見つかったのは「関連」です。また、運動負荷試験で評価した値の研究で、スマートウォッチの推定値で調べたものではありません。1 回の通知で、一人ひとりの将来が決まるわけではありません。研究の読み方はVO₂Max と健康の関係にまとめています。
先に医師に相談すること
- ふだんの活動で、息切れや動悸が強くなった。胸の痛みがある。 数字の前に、症状を医師に伝えてください。
- 心臓や肺の病気、心拍に関わる持病や機器がある。 Apple の技術文書は、運動に合わせて心拍数が上がりにくい状態(心不全や慢性閉塞性肺疾患などでみられる)では推定値が高めに出ること、不整脈、ペースメーカー、痛み、歩くのが難しくなる病気などでも推定が正確でなくなることがあるとしています。こうした人は、スマートウォッチの分類より、主治医の評価を優先してください。
- 運動を始める前に確かめたいことがある。 持病や服薬、最近の運動習慣のチェックは安全に始めるためににまとめています。
高めたいときは
Apple のサポートページは、ほとんどの人は有酸素運動の強さや頻度を上げることで VO₂Max を増やせる、としています。18〜45 歳の健康な成人の対照比較試験をまとめた研究では、もともとの VO₂Max が低い人ほど、トレーニングによる伸びが大きい傾向がありました(28 試験・723 人、平均 25 歳。Milanović ら 2015)。
運動をしていなかった人は、体調や持病・服薬を確認し、軽い運動を短い時間から始め、状態に合わせて少しずつ増やしましょう(中強度の持続運動)。方法ごとの研究の結果はVO₂Max を高める方法の比較にまとめています。スマートウォッチの見方はスマートウォッチ・スマホで VO₂Max を見る方法にあります。
このページに出てくる会社名・製品名・サービス名は、各社の商標または登録商標です。Apple の説明は、ソフトウェアの更新で変わることがあります。
出典
- Apple サポート「心肺機能レベルを追跡する」(2026 年 9 月 16 日公開) https://support.apple.com/ja-jp/108790
- Apple "Using Apple Watch to Estimate Cardio Fitness with VO2 max"(2021 年 5 月) https://www.apple.com/healthcare/docs/site/Using_Apple_Watch_to_Estimate_Cardio_Fitness_with_VO2_max.pdf
- Kaminsky LA, Arena R, Myers J. Reference Standards for Cardiorespiratory Fitness Measured With Cardiopulmonary Exercise Testing: Data From the Fitness Registry and the Importance of Exercise National Database. Mayo Clin Proc. 2015;90(11):1515-1523. https://doi.org/10.1016/j.mayocp.2015.07.026
- Paterson DH, Cunningham DA, Koval JJ, St Croix CM. Aerobic fitness in a population of independently living men and women aged 55-86 years. Med Sci Sports Exerc. 1999;31(12):1813-1820. https://doi.org/10.1097/00005768-199912000-00018
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」INFORMATION 6「全身持久力(最高酸素摂取量)について」 https://www.mhlw.go.jp/content/001195874.pdf
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」INFORMATION 4「身体活動・運動を安全に行うためのポイント」 https://www.mhlw.go.jp/content/001195872.pdf
- Lambe R, O'Grady B, Baldwin M, Doherty C. Investigating the accuracy of Apple Watch VO2 max measurements: A validation study. PLoS One. 2025;e0323741. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0323741
- Lambe R, Schumann M, Donnelly L, et al. Accuracy of VO2 max Estimates From Apple Watch Series 10. Mayo Clin Proc Digit Health. 2026;4(2):100357. https://doi.org/10.1016/j.mcpdig.2026.100357
- Kodama S, Saito K, Tanaka S, et al. Cardiorespiratory fitness as a quantitative predictor of all-cause mortality and cardiovascular events in healthy men and women: a meta-analysis. JAMA. 2009;301(19):2024-2035. https://doi.org/10.1001/jama.2009.681
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- Milanović Z, Sporiš G, Weston M. Effectiveness of High-Intensity Interval Training (HIT) and Continuous Endurance Training for VO2max Improvements: A Systematic Review and Meta-Analysis of Controlled Trials. Sports Med. 2015;45(10):1469-1481. https://doi.org/10.1007/s40279-015-0365-0
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